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月のリズムを体に宿す奇妙な海洋生物たち

月が動物、特に海に住む動物に及ぼす影響は大きい。

 月の満ち欠けに応じて、海の動物たちは興味深く、ときに奇妙な行動パターンをみせるが、最近の研究によって、さまざまな動物が月のリズムに同調する体内時計を持つことが明らかになってきた。

こうした研究により、動物の知られざる側面が明らかになるほか、人間を含む動物が持つ体内時計の理解を深める手がかりも得られる。

 体内時計を最初に進化させたのは海の生きものだ。そのため、海洋生物の体内時計を研究することで、それがどのように進化したのか、どのような働きや相互作用があるのか、多くのことがわかる、と英スコットランド海洋科学協会の研究員キム・ラスト氏は説明する。以下に、月のリズムに関係ある海洋生物とその行動を紹介しよう。

動物プランクトン
 動物プランクトンは、世界最大規模の大移動を行う。毎夜、植物プランクトンを食べに海面へ向かうのだ。動物プランクトンは、太陽の光を頼って狩りをする多くの動物の餌でもある。そこで夜明けには、食べられるのを避けるために深く潜る。

「捕食者は、光が届かなくなるところに動物プランクトンがたどりつくまで追いかけます」とラスト氏は話す。こうした日々の行動は、通常は太陽光によって調節される。しかし、冬に太陽が昇らない期間が数カ月も続く北極圏には、月のリズムに合わせた体内時計を持つ動物プランクトンがいる。つまり、体内時計は2つある。

 冬の北極圏に満月が昇ると、数日の間、地平線の上にとどまる。緯度によって期間は異なるが、その間、動物プランクトンは、捕食者から隠れるために深く潜る。しかし、月が昇ったり沈んだりする時期には、月の出入りの周期に合わせて、海面に浮上したり潜ったりする。この場合の月の周期は24時間50分だ。

カキ
 カキ(Crassostrea gigas)も、月のリズムに合わせて殻を開けて捕食したり産卵したりすることが、新たな研究で示された。1月9日付けで学術誌「Biology Letters」に発表された論文によると、カキの殻の開き具合は、新月には明らかに大きく、満月には小さくなることがわかった。しかも、上弦の月と下弦の月で異なり、後者の方がかなり(20%近く)大きく殻を開けていた。つまり、カキは単に明るさではなく、月の満ち欠けの周期に合わせて行動しているわけだ。

 カキが月の満ち欠けに合わせて行動する理由は不明だが、月が欠けゆくときや新月の方が、植物プランクトンをはじめとする食物が増えるためではないか、と研究のリーダーを務めたフランス、ボルドー大学の研究者ダミアン・トラン氏は言う。

 月齢は、潮の満ち引き、ひいては潮流に影響を与える。これが食物の入手のしやすさに影響を及ぼす可能性があると、英ウェールズにあるアベリストウィス大学の海洋生物学者デイビッド・ウィルコクソン氏は説明する。満月と新月には、月と地球と太陽が一直線に並び、海水を引く力が強くなるため、潮の干満差が大きくなる。一方、半月には、月と地球と太陽が直角であり、潮の干満差は小さくなる。なおウィルコクソン氏は、今回の研究には関わっていない。

 カキの殻の開閉リズムは、繁殖と関係している可能性もある。月は、潮汐や海流に影響を与える。このため、特定の月齢や1年のうちの決まった時期に繁殖する海洋生物は多い。

 例えば、カキやサンゴなど、海洋動物の多くは「一斉産卵」を行う。きっちりタイミングを合わせて精子と卵子を同時に放出し、ある種爆発的な狂宴を繰り広げる。

パロロ(イソメの仲間)
 世界中の暖かい海に生息するパロロの繁殖は、その極端な1例だ。

 例えば、太平洋パロロ(Palolo siciliensis)は、海底やサンゴの中で有機物を食べて1年のほとんどを過ごす。しかし南半球に春が訪れると、体の後部が、卵や精子の詰まった袋状に変わる。

 10月の2日間に、パロロは前部を切り離して、月光が差す海面に向かって泳ぎだして一斉に繁殖する。さらにきっかり1カ月後、11月の下弦の月の前後にも、無数のパロロがこの離れ業を繰り返す。

フナムシ
 もっと普通の行動も、同じように月のリズムによるのかもしれない。例えば、小さなフナムシの仲間(Eurydice pulchra)は、満潮になると海に覆われる潮間帯の砂地に巣穴を掘る。彼らの体内には日時計ならぬ「月時計」があり、潮の満ち引きと同じ12.4時間周期で活動する、とウィルコクソン氏は説明する。

 フナムシには約1カ月の周期もあり、潮が速い満月と新月にはより活発に、遅い小潮のときにはよりおとなしくなると同氏は言う。一方、太陽に関連した1日ごとの周期もあり、日光から身を守るため日中は色が濃くなり、夜は薄くなる。

 研究室での実験により、これらの周期に関するメカニズムは異なることが示されている。「人は概日周期は捨て去ることに成功しましたが、潮汐の周期には手を出さずにきました」とウィルコクソン氏は述べる。

ハマトビムシ
 もうひとつ、過小評価されている生きものがいる。欧州の砂浜に広く生息する甲殻類ハマトビムシの一種(Talitrus saltator)だ。

「日中に彼らに触れると、砂浜を上って砂に潜ります」とウィルコクソン氏は話す。「ところが、夜は砂浜を下って波に打ち上げられた餌を食べます」

 蝶のオオカバマダラで示されたように、彼らは触角で太陽の光を感知して移動しているという仮説を立てた、と同氏は説明する。そして、同氏の研究チームは、ハマトビムシの触角を取り除き、昼夜にどのように移動するかを観察した結果を2016年に学術誌「Scientific Reports」に発表した。

 予想に反し、触角なしでも、日中は普通に移動できた。おそらく脳(と目から入る光)を使っていると考えられる。しかし、夜になると、触角なしでは、まったく道がわからなくなってしまった。この実験により、ハマトビムシは、太陽と月のそれぞれに関連する独立した体内時計を体の異なる場所に持っていることが示された。

「このハマトビムシは、月時計と日時計をそれぞれ触角と脳に持っているのです」と同氏は付け加えた。

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